救世主!?無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」

日本では花粉症において、スギ花粉症が最も多くの患者数を占めています。また、スギよりもやや遅れて花粉の飛散が始まるヒノキについても、造林地が多い地域などでは花粉症の原因となっています。

令和5年6月30日付けで「スギ花粉発生源対策推進方針」が改正され、この中で今後10年間でスギ林を約2割減少させることとなりました。さらに、令和5年12月22日の改正では、将来的(約30年後)には花粉発生量の半減を目指し、「現存のスギ人工林等を伐採し、伐採した木材を使い、伐採した跡地に花粉の少ないスギ苗木を植え、そして育てる」循環利用のサイクルを確立する等の内容が追加されています。

神奈川の花粉発生源対策について

神奈川県でも、スギやヒノキなどの人工林が森林面積の4割を占めており、広範囲に飛散する花粉の発生源となっていることから、本県では次の取組を進めています。

  • 花粉症対策苗木の生産
  • スギ・ヒノキ林の針広混交林化と植え替え

樹種別森林面積割合(民有林)

伐採後、花粉症対策苗木を植えたスギ林

花粉症対策苗木とは

花粉症対策苗木とは、一般的なスギやヒノキの品種と比べ、花粉生産量が少ない、あるいは全く生産しない品種の苗木です。本県ではこうした花粉症対策苗木に関する研究や生産の取組みを推進しています。(現在県内で生産しているスギ・ヒノキの苗木は、すべて花粉症対策苗木となっています)

無花粉スギ花粉を全く生産しないスギです。
平成16年度に県内で1本発見され(国内の太平洋側で初めて)、平成21年度から苗木の生産を開始しました。
少花粉スギ花粉生産量が一般的なものに比べ約1%以下のスギです。
平成12年度に選抜され、苗木の生産を開始しました。
少花粉ヒノキ通常より雄花がつきにくいヒノキです。
平成16年に全国に先駆けて花粉症対策品種として選抜を行い、平成17年春から苗木の生産を開始しました。
無花粉ヒノキ花粉を全く生産しないヒノキです。
平成24年に全国で初めて無花粉ヒノキを発見(令和4年3月品種登録)、令和3年春から出荷可能となりました。
本県で生産している花粉症対策苗木

無花粉スギの苗木

無花粉スギの雄花着花状況

無花粉スギの雄花の内部
(花粉が見られない)

有花粉スギの雄花の内部
(花粉(小さな粒)が見られる)

救世主!?無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」

平成24年に神奈川県が全国で初めて発見した無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」。
いったいどんなヒノキなのでしょうか?

どこが違うの?「丹沢 森のミライ」

無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」は両性不稔といって花や実をつけますが、花粉や種子ができず花粉を飛ばしません。
形態的にも花と実の色や形、冬期の葉色が黄緑色という違いがあります。

▲雄花と雌花の比較

▲冬葉の比較

いずれの写真も左:「丹沢 森のミライ」、右:ナンゴウヒ(ヒノキ基準品種)
「丹沢 森のミライ」は雌花(〇)が黄緑色で冬でも葉が緑色が強いのが特徴です。

▲球果(実)の比較

どうやって作るの?「丹沢 森のミライ」

「丹沢 森のミライ」は、種子ができないためさし木で増殖します。”コンテナ直ざし”で良好に生育するため、移植の手間がありません。

▲さし穂を採取するための採穂園
(自然環境保全センター所内。
無花粉ヒノキ採穂園の設置は全国初。2020年3月)

▲さし穂をコンテナに直さしする様子

種がない植物は、このようにさし木で増やしていくのですね。

▲コンテナで育苗される「丹沢 森のミライ」
(写真は2019年春、生産開始直後の240本)

▲2年後、規格を満たし、出荷される苗木(写真は2021春、初出荷152本の一部)

コンテナ直さし発根試験結果

苗木生産用のコンテナ容器を用い、ココピートオールドと鹿沼土又は赤玉土を1:1で混合した用土に発根率は約9割となり、2年間育苗した苗は、県の苗木規格(高さ30cm、太さ3.5mm)を上回りました。

強度もあります!

強度がつよいことで有名なヒノキですが、「無花粉ヒノキは強度が弱いんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
実は、そのようなことはなく、通常のヒノキと比べ、遜色のない強度があるのです。
花粉を飛ばさず、強度も遜色のない「丹沢 森のミライ」。まさにいいとこどりのヒノキなのです。

「丹沢 森のミライ」と人々のミライ

ヒノキは香りもよく防虫効果もあることから、非常になじみの深い木ですが、花粉症患者にとっては、花粉症という副産物がつきものでした。
神奈川県で発見されたこの無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」で、ヒノキがより人々に愛される木となるミライが来ることを願っています。

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